中央図書館大人のためのおはなし会 第51回 2023年12月
2023年12月15日(金) は、「大人のためのおはなし会」が世田谷区立中央図書館「おはなしのへや」で開かれました。
朝から降っていた雨はおはなし会が始まる頃には止みましたが、寒い中5名の方がいらしてくださいました。
毎年12月にはクリスマスや年末年始のおはなしを語っていましたが、今年は冬の寒さが和らぐような『温かくなるおはなし』をテーマにして五つのおはなしを語りました。
初めのおはなしは、グリム童話の「おいしいおかゆ」でした。
お母さんと二人暮らしの貧しい女の子が、おばあさんにおかゆが出てくる魔法の呪文を教えてもらいました。ある日女の子の留守にお母さんが呪文でおかゆを出しましたが止めることが出来ず、台所から家の中、隣の家、道までおかゆだらけになってしまいました。女の子が帰ってきておかゆは無事に止まってほっとしましたが、近隣の人たちがおかゆをパクパク食べながら道を通り抜けなければならなくなったのは何だか可笑しくて楽しそうですね。お腹も心もあったかくなるようなおはなしでした。
二つめのおはなしは、「久野原のきつね」という千葉県に伝わる昔話でした。
情け深く優しい八兵衛さんは、久野原で「くたびれた」と言ってうずくまっている娘を何度もおんぶして助けましたが、それはきつねが娘に化けていたのでした。正体を知って怒った八兵衛さんは、ある日きつねをつかまえますが、きつねがとても反省しているので許してやり、持っていたおいなりさんもやりました。すると八兵衛さんの家にきつねが仲間のきつねと一緒に稲穂を少しずつ運んできて、とうとう稲穂は一俵分になり八兵衛さんの家はいいお正月を迎えることが出来ました。
いいことをするといいことがありますね。優しい八兵衛さんと可愛いいたずらぎつねの、ほっこりと心温まるおはなしでした。
三つめのおはなしは、「ダイヤモンドの谷 ―アラビアンナイト―」という、主人公シンドバードの7つの冒険のうちの2回目の冒険のおはなしでした。
島に一人残されたシンドバードは、ロック鳥という途轍もなく大きな鳥の足にターバンで自分を縛りつけて一緒に空を飛んで島を脱出し、沢山のダイヤモンドが煌めくものの大蛇がうようよしている深い谷に着きます。すると今度は大蛇を狙う大鷲の餌用の大きな肉の塊に再びターバンで自分を縛り、それを掴んだ大鷲によって谷から見事に脱出し、沢山のダイヤモンドも得ることが出来たのでした。
何もかも信じられないほどスケールが大きく、奇想天外でダイナミックなおはなしに胸が躍り、気持ちが大きく広がるようでした。
四つめのおはなしは、イギリスの昔話で「いたずらおばけ」というおはなしでした。
貧乏でひとりぼっちだけど、いつも「私は運がいい」と言って楽しげに明るく暮らしているおばあさんが、ある日、道で金貨がいっぱい詰まった大きな黒い壺をみつけます。おばあさんはとても喜びますが、そのうち黒い壺が銀のランプになり、鉄のランプになり、とうとう大きな石になってしまいました。おばあさんはその度に驚くものの、明るく前向きにそれぞれの用途を思いつきましたが、それはみんないたずらおばけが化けていたのでした!最後にはいたずらおばけが姿を現し大騒ぎして去っていきますが、おばあさんはそれにも大笑いして面白がり、その晩は楽しい気分で床に入ったのでした。
人間の幸不幸は考え方次第なのかもしれませんね。切り替えが早くいつもポジティブなおばあさんの様子に心が明るくなりました。
最後のおはなしは「山の上の火」という、エチオピアの昔話です。
アジスアベバに住むアルハという少年が大金持ちのご主人に、「高いスルハ山で火を使わず着物を脱いで一晩過ごせたら40ヘクタールの畑と家と牛とヤギをやろう」と言われました。そこでアルハは物知りじいさんの知恵で、じいさんが向かいの遠くの山に火を焚き、アルハはその火に励まされてスルハ山で一晩過ごすことができました。ところがご主人は火を使ったと言って約束を果たしてくれません。そこでアルハが再び物知りじいさんに相談すると、じいさんの元のご主人のハイルが一計を案じ「匂いがしただけでは食事をしていないのと同じようにアルハが火を見ただけでは体は温まらない。」と説得してくれたので、アルハは約束通り40ヘクタールの畑と家と牛とヤギを手に入れることが出来ました。
ハイルのウイットに富んだ説得にも感心しましたが、人はどんなにわずかな希望の灯でも見出すことができれば、たとえ無理に見えることでも勇気と知恵でやり遂げることが出来るのだと感動しました。心にいつも希望の灯を忘れずにいたいと思いました。
年の瀬に五つの「温かくなるおはなし」を語りましたが、2024年も心温かで希望輝く年でありますように。
テーマ:温かくなるおはなし
☆プログラム☆
おいしいおかゆ -グリムの昔話-
「子どもに語るグリムの昔話1」
佐々梨代子・野村滋訳 こぐま社
久野原のきつね-日本の昔話-
「千葉わらい(子どもに贈る昔ばなし5)」
南総昔ばなし大学再話コース再話 小澤俊夫監修
小澤昔ばなし研究所
ダイヤモンドの谷 -アラビアンナイト-
「子どもに語るアラビアンナイト」
西尾哲夫訳・再話 茨木啓子再話 こぐま社
いたずらおばけ -イギリスの昔話-
「世界のむかしばなし」瀬田貞二訳 太田大八絵 のら書房
山の上の火 -エチオピアの昔話-
「山の上の火」クーランダー文 レスロー文
渡辺茂男訳 土方久功絵 岩波書店
次回は、2024年2月16日(金)の予定です。
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